恋愛メンテナンス
「永田さん!すいません!ちょっといいですかぁ!」

引っ越し屋の兄ちゃんが呼ぶ。

「じゃあ、そんな訳で」

「あぁ、えぇ…はいはい…」

永田さんは、呼ばれて慌てて部屋の中へと戻って行った。

もちろん私も、一旦部屋へと戻った。

なんだろうね…。

あの図々しいくらい、偉そうな態度と毒舌。

せっかくカッコイイのに、イヤらしい性格してんのよね。

背が高くて細身でさぁ、顔の中身もキリッとしてて、カッコイイのに。

しかも吐息の入り混じるような、甘いセクシーボイスで、

「アホだな、おまえ」

って、ドキドキさせちゃうくらい素敵な声してんのに。

神経質だって。

神経質って、何?

この私が、どう独り暮らしで、騒いでうるさくしろって言うのよぉ。

彼氏だって居ない事も、分かってんでしょうがぁ。

言わなくてもいい事を言って、イヤミったらしく食い付いてくんなっての!

もぉ~!

ムカムカしてんのに、思い出すとフワフワする。

心臓がフワフワと宙に浮かんで。

ドキドキ…ゾクゾク…

恋が始まる瞬間みたいに。

変な感覚になる。

やだなぁ、ムカツクのにドキドキだなんて。

変態じゃ~ん。

自分がどっちの感覚を優先したらいいのかも、
選択出来なくなっていた。

ある日、モモちゃんからの電話が入る。

どうやら来月の街コンの誘いのようだ。

「どうする?申し込む?」

「モモちゃん、それよかどうなのよぉ。こないだの、営業マンは?」

「お友達として、まだまだメル友までの仲だよ」

「そっかぁ。いいなぁ~♪」

本っ気で…うらやましい~っ。

「としこっちだって、銭湯で王子様に出逢ったんでしょ?癒しの王子様ぁ♪」

モモちゃん、頼むから何度も王子様だなんて言わないでぇ。

全然、違ったからぁ。

「また逢えるかもだよ?」

逢えるかもじゃなくて、何度も逢えるんだって、これがまた。

弁解しようとすると、モモちゃんが話し始める。

「子持ちだって、としこっちにとっては、癒しの王子様なんだから。この際、一目惚れと認めて、恋に落ちちゃいなよぉ」

恋に落ちるだなんて…。

若干、僅かに落ちてるかも知れないけど。

恋ってやつに。

「逆に、子持ちの男なら結婚なんて要求される確率は、かなり低いよ?としこっちには、ちょうど良い関係で居られると思うんだけどなぁ」

「うぉい!…私にうまくいったら愛人やれってか?」

思わず、スマホを耳から外した。

とんでもねぇのが、ここにも居たか。

「意外な出逢いが、意外な関係を作るかもねぇ~ん☆」

モモちゃん、浮かれてるね。

人ごとだからって、突拍子もないんだから。

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