キミが泣くまで、そばにいる


 長い腕は、私の後頭部に回り、無造作にまとめた髪に触れた。

「俺は下ろしてるほうが好きだけど、結ぶ必要があるなら、こういうヤツのほうが似合うんじゃない?」

 飾り気のないシリコンのヘアゴムの上に、何かが巻かれる。

 手を伸ばすと、ふわりと柔らかな布が指に触れた。

「シュシュ?」

「あげる」

 私から手を離すと、アカツキは柔らかく表情を崩した。


「かわいいよ、知紗は」


 バクンと心臓が跳ね上がった。

「なっ、な……」

 声を失ってるあいだに、「じゃあね」と背中を向けてしまう。

 遠ざかっていく背中を呆然と見送っていたら、派手な頭が途中で一度振り返った。

 右手を小さく掲げて、また歩き出す。

 人が行き交う駅前で、喧騒に負けないくらい胸が激しく鼓動していた。

 なに……今の。

< 172 / 273 >

この作品をシェア

pagetop