駅前ベーカリー
* * *

「着いたよ、理真さん。起き上がれる?抱っこする?」
「ん…あ、歩く。」
「分かった。じゃあ支えるね。」

 助手席のドアを開けて、シートベルトを外し、理真の背中に腕を回して立たせてくれる。こんなことまで甘えたいわけではないけれど、身体に力が入らない今は素直にありがたい。
 玄関のドアを開けて、理真を中に入れてから凛玖も入る。そしてゆっくりとドアを閉めた。
 靴を脱ぐのがだるい。そんな熱があるのを感じる風邪は久しぶりだった。気を抜いたわけでも大幅に仕事で無理をしたわけでもない。それなのに、よりによってデートの最中にふらつくなんて。

「んー…思ってたより高くない感じがするけど、どうなんだろ…。俺、風邪ひかないしなぁ。」

 凛玖の案外大きな手が理真の額に触れた。

「でも、辛そうですねシンデレラ。靴を脱がせて差し上げますよ。」
「っ…だ、大丈夫!ちょっとだるいだけだから!」
「動きがいつもと違ってゆっくりだよ?ちょっとだるいだけなんて嘘だね。」

(ああ、まただ。凛玖くんが私の嘘を簡単に見抜く。悪いなって思うの、嘘じゃないのに、嬉しいなって思うのも嘘じゃない。)
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