アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「ごちそうさまでした」
道路に出て、二人は頭を下げた。
鈴音も「食べてくれてありがとう」と頭を下げる。
彼女の笑顔を再び見られると思うと、うれしくなった。
坂道をおりてゆく。
少し前を行く結城の髪が、揺れている。
ポケットに手を入れ、少し背を丸め、振り返り、髪をかきあげる。
目を細めて、拓海を見た。
「あの人のこと、好きなの?」
拓海は思わず立ち止まった。
「え?」
「好きなの?」
「ち、違うよ」
拓海は心臓がどきどきして、なんて答えていいのかわからなかった。
「そうか」
結城は再び前を向き、無言で坂を降りて行く。
「彼女の光だけが自分の目に見えるから、とても気になるんだ」
とは言えなかった。
結城にもずっと、光のことは隠して来た。
やはり自分が少し他と違うということを自覚していたから、みだりに口にできなかったのだ。
拓海は小走りで結城に並ぶ。
結城を見上げる。
何を考えているかわからない。
「結城」
拓海は呼びかけた。
「何?」
笑顔で拓海の顔を見る。
「いや、何でもない」
呼びかけたはいいが、何をしゃべっていいのかわからずうつむいた。
「夏を楽しみなよ」
結城が言った。
「?」
「俺の分まで、楽しく過ごして。それでいろんなことがわかったら、俺に報告な」
「なんだ、それ」
「隠し事はなしってこと」
結城が拓海の背中をぽんと叩いた。