アイスブルー(ヒカリのずっと前)


鈴音は身支度と戸締まりをして、家を出た。


家の前の道路で、拓海が立って待っていた。
コンクリートは溶けるほど熱い。
鈴音は水筒にアイスコーヒーを入れて来ていたが、もすうでに一杯飲みたい気持ちになった。


「あつい。今日はもう何度同じことをいったか、わかんないや」
鈴音は祖母が使っていた日よけの帽子をかぶる。

「帽子がレトロですね」
拓海が言った。

「いいでしょう? 祖母のなの。ああ、あつい」
鈴音はタオルで顔をぬぐった。



二人は歩き出した。


「あついって言ったら、罰ゲームにしましょうか」
拓海がいたずらっ子のような表情をする。

「すぐに負けそう。でもいいよ、やろう」
鈴音が背筋を伸ばす。
「罰ゲームって何する?」

「何が嫌ですか?」

「しっぺとか、でこぴんとか」

「体罰系ですね」

「違うの?」

「恥ずかしいことを告白するとか、変な顔をするってのもありますよ」

「体罰系がいいな」鈴音が言うと、
「じゃあ、告白にしましょう」と拓海が言った。

「ええ! 意地悪だな」

拓海はにこっと笑って
「いつも結城にいじめられてるので、たまには」と言った。

「いいよ、じゃあ、スタート」


歩き出すと、少し風を感じる。
蝉はいたるところでないている。


「この道をまっすぐいくと、新興住宅街。あ、でも新しくもないかな。わたしが高校生のときにできたんだから」
鈴音は進行方向を指差した。

「駅からかなり距離がありますよね」

「そうね。やっぱりみんな自転車で、この道を下っていって、駅までいくわね。でも小さな店舗はいくつかあるのよ」

「へえ」

「ほら右手に見える?」
鈴音は指差す。

「あそこでちょっとした野菜とか、食品を買えるの。でもドラッグストアはないわね」


畑と住宅。
道の幅はせまい。


「この畑は何を作ってるんですか?」
拓海が聞いた。

「なんだろうね。税金が安いから地主さんが畑ってことにしてるだけかも。この辺りで農業を生業にしてるっていうのはきいたことない」

「なりわい?」

「ああ、その仕事で食べてるってこと」

「ふうん」

「のどかわいたな」
鈴音は思わず言う。

「なんで?」
拓海がに口元をきゅっとあげて笑って問いかける。

「その手には乗らないよ」
鈴音は笑って返した。

「古い一軒屋が多いけれど、お年寄りが多いんですか?」

「そうね。多分」

「お年寄りだと、お昼ご飯を食べに出るなんてことないですよね」

「そうよね」
鈴音は頬に手を当てて、ふうと溜息をついた。

「でもよく集ってる。話し込んでる」

「お茶とか、コーヒーとか、安価で出したら、来てくれるかもしれませんね」

「そうかも」

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