婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。
【菅原大河Side】
俺が始業式で出会ったのは、等身大の日本人形のような少女だった。
(なんだあれ……本当に人間か?)
思わずそんな事を考えながら、俺こと菅原大河はその少女へと視線を注いだ。
キメの細かい雪のような肌と、滑らかそうな黒い髪。
手には薄紫色の扇を持っており、微かに頬に差した赤みだけが人間らしさを伝えてくる。
周囲の人間の目を根こそぎ奪うような、そんな人間離れした美しさを湛えた少女――それが、俺の七宝院星華に対する第一印象だった。
どことなく居心地悪そうにしていた彼女に声を掛けたのは、ただの好奇心。
話してみると、予想どおりの落ち着いた声に思わず聞きほれそうになった。
しかし、本当に驚いたのはその後だった。