続・赤い流れ星




昨夜はほんの少しとはいえお酒を飲んだせいなのか、いつもよりリラックスして話すことが出来た。
アッシュさんが妙に盛りあがって、青木さんにもどんどん飲ませるから、そのうち青木さんも酔っ払ってきて、夜遅くまで我が家には明るい笑い声が絶えなかった。
だから、私もそれに釣られて、思いっきり笑ってしまった。
お腹の底から笑ったのなんて本当にひさしぶり。
普段、こんなに笑う事がないせいか、頬の筋肉が痛くなる程だった。
青木さんも、少し気晴らしが出来たんじゃないかと思うと、さらに私の気持ちは和む。



(もしかしたら、アッシュさんはそのためにお酒をすすめたのかもしれないわ…)



その晩はぐっすり眠れて、おかげで今朝の目覚めはすこぶる良かった。
青木さん達がまだ眠っているうちに、私は急に思い立ち少し離れたパン屋さんに向かった。
そこのパンはとっても美味しくて、時々無性に食べたくなるものの、面倒だからよほど気が向いた時にしか行かないのだけど、どうしても青木さんに食べてもらいたくて私は弾んだ気持ちで自転車を漕ぎ出した。
考えてみれば、こんな朝のうちに外に出ることもめったにない。
出掛けるのはいつも少し薄暗くなってから。
闇が私を隠してくれるような気がして、暗い方が出掛けやすいから。
だけど、久し振りの朝の景色は思いの外清清しくて…
太陽もまだ眩しいという程ではなく、ひんやりとした空気も肌に心地良いし、何の変哲もない町の風景がどこかキラキラして見える。
だから、いつもなら面倒に思えるパン屋さんまでの距離も少しも苦にならない。



(あれ…!?)



着いたら、パン屋さんの様子がおかしい。
扉も窓も内側からカーテンで塞がれていて、もしかして定休日だったのかと焦ったけど、店の看板を見ると開店時間まであと三十分あることがわかった。



(早過ぎだんだ…)



普段の私ならきっとここで落ちこむのだろうけど、今日はそんなこともたいして気にはならなかった。
自転車を押しながら店のまわりをゆっくりと散策しているうちに、私は小さな公園をみつけた。
ベンチのある場所はとても日当たりが良く、そこに腰掛けて私はぼんやりと公園の景色に目を移す。
ブランコが二つ…ペンキの剥げた小さな滑り台…
私の視線はその風景を見てる筈なのに、頭に浮かんでいるのは青木さんの笑顔だった。
まるで、思春期の少女のようなときめきを感じていることに、私は気付いて戸惑った。
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