腕枕で朝寝坊

*眠れない夜に



お礼SS
~眠れない夜に~


※同棲編
美織視点




「ひゃあああああっっ!」


ある日の夜、私は自分の叫び声で目を覚ました。

月明かりの射し込むいつもの寝室。
ドキドキする胸を押さえながら、その光景をぐるりと見渡し安堵のため息を吐く。


「なんだ…夢か……」


たった今、私が見てた夢。

それはどっかの廃病院で不気味なオバケに追いかけ回されるという背筋も凍るもの。

恐いものが苦手なのにうっかり見てしまった昨日の心霊番組の影響をモロに受けている。


「あんなもん見るんじゃなかったぁ…」


テレビの映像とさっき見た夢を鮮明に思い出してしまい、ブルリと身体を震わせた。

すると

「……どうしたんですか、美織さん…」

隣で寝ていた紗和己さんが眠たそうに身体をこちらへ向けた。


「あ、ゴメン、起こしちゃったね」

「どうかしましたか…?」


熟睡していたところを私の叫び声で起こしてしまったのだろう、紗和己さんは半分夢うつつの状態で心配そうに目を開いた。


「ちょっとね、恐い夢見たの」


そう答えてもう一度ベッドへ深く潜りなおすと、紗和己さんは手を伸ばして私を優しく自分の胸へと抱き寄せて言う。


「…大丈夫ですよ。僕が守ってあげますから。もう恐くないですよ…」


うつらうつらとしながらも、紗和己さんは大きな手で私を安心させるようにポン、ポンとゆっくり背中を叩いた。


……守ってあげるって、オバケから守ってくれるのかなあ。


きっと半分寝ぼけているのだろう紗和己さんの庇護欲が可笑しくて、でも嬉しくて。


私は安心してもう一度眠りに堕ち……


…………られなかった。



「ぅわぁっ!!」


ウトウトと眠りに入ろうとした瞬間、またしてもさっきの夢の続きを見てしまい、私は身体をビクッと跳ねさせ目を覚ました。


ドキドキする心臓をおさえ、ハーハーと荒い息を整えながら

「もう絶対あんな番組見ない…!!」

と半ベソで後悔する。…と。


「………美織さん……眠れないんですか……?」


寝息と混じり合うような声で、紗和己さんが呼び掛けてきた。


また起こしちゃったと申し訳なく思いながらも、未だ夢の恐怖から抜け出せなくてギュッと紗和己さんの胸にしがみつく。


「また恐い夢見た~」


ギュウギュウしがみつく私に、紗和己さんは目を閉じたまま再びポンポンと背中を叩きだした。


それでも、飛び起きたせいで心臓がドキドキしてしまい、なかなか眠れないでいると

---「……~~…」

静かに、頭の上からなにかが聞こえてきた。



不思議に思い耳を傾ける。


---「………~……~♪」


………………………歌?



驚いて首を上げて紗和己さんの顔を見ると、彼は目を閉じたまま静かに歌を……子守唄を歌っていた。


ポンポンと背中をゆっくり叩く手に合わせるように。



………いくら眠れないとは言え、私、子守唄歌われちゃってるよ。

紗和己さん、まるで小さい子供を安心させようとしてるみたい。



半分寝ている状態なのだろう、紗和己さんは途中夢の世界に堕ちながら途切れ途切れに歌を紡ぐ。


それでも静かで優しい子守唄は止むことがなくて。



……紗和己さん、明日の朝、このこと覚えてるかなあ。


覚えてなかったら『僕そんな事しましたか!?』って恥ずかしがりそう。



なんだか可笑しくなって、クスクスと笑いを零していたら、恐い気持ちはもうどっかに行っちゃって。



あとは落ち着いた気持ちで、心地よい手と静かな子守唄を受け入れた。



~眠れない夜に・完~

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