恋の糸がほどける前に

「……っ」

貴弘の言葉を頭の中で反芻して、だけどやっぱり意味がわからなくて、私は言うべき言葉をなにひとつ見つけることができなかった。


「……亮馬じゃお前を守れねーよ」


私の手をとらえる手とは逆の手で、私の頬をゆっくり撫でた。


……海で、男たちに叩かれた場所だ。

近くで見なければわからないほどの腫れだったし、バレないって思ってたのに。

どうしてこいつは、分かってしまうんだろう。


水原の傷は誤魔化しようがなかったから、次の日、皆に正直にあったことを話したのだけど、誰もこの傷について触れる人はいなかったから、気付かれずに済んだのだと思っていた。


「俺なら……、絶対葉純に指一本触れさせたりしなかったのに」


切なげな瞳で私の傷に触れる貴弘が、いつもの貴弘じゃないみたいで、頭がついていかない。


「た、貴弘……?どうしたの。またからかってるんだよね?」

「は……?」

「それに、水原はちゃんと助けてくれたよ?私がこれくらいの傷で済んだのは、水原のおかげだよ」


空いているほうの手で、貴弘の身体を押し返そうとしたけれどびくともしなくて、私は「どいて」ともう一度言おうと、口を開いた。


……だけど。

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