天使の涙
眠れない咎人



私の本当の父親は、私が産まれてすぐに大きな飛行機事故にあって死んだ。


父親の思い出なんてものは全く無くて、その存在の温もりも優しさも、想像することしか出来なくて、ご立派な幻想とやらを抱いていたんだ。


お父さんとお母さんの二人揃っていることが当たり前じゃないこのご時世。
片親の子は少なからず周りにもいた。


だけど


『昨日ね、お父さんとキャッチボールしたんだぁ』


『お父さんがね、おもちゃ買ってくれたんだよーっ』


やっぱり人間って、どうしても無いものねだりをしてしまう生き物なんだと思う。


『新しいお父さんよ。今日から三人で一緒に暮らすの。凜、お父さん欲しかったんでしょう?』


『ハハッ、宜しくね。凜ちゃん』


大きな掌が幼い私の頭に触れる。
その温もりは、優しさは、確かに憧れていたもの。


『今日はママがいないからパパと一緒にお風呂に入ろう』


『どうしていつもお母さんがいないときなの?』


身体に触れる指も舌も鼻先すらも、父親から与えられる喜ぶべき愛だとばかり思っていたのは最初だけで


『あの馬鹿女…俺に口答えしやがって…っ。その点、凜ちゃんはいい子だね。本当に…君はいい子だよ。本当に、本当に』


イイコにしてレバ、痛くしないカラ。


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