ラストバージン
『佐原さんと上手くいってないの?』

「上手くいくとかいかないとかの問題じゃなくて、やっぱり佐原さんとの交際も結婚も考えられないの」

『あのね、葵』

「私なりにちゃんと考えたつもりだよ」


不満げな母の声を遮るように、きっぱりと言い放つ。


「最初は、初めて会った時にきちんとお断り出来なかった事を後悔したけど、たった一度会ったくらいじゃ何もわからないんだって自分に言い聞かせて、食事に行った。でも、全然楽しめなかったの」


佐原さんと二度目に会った時に行ったカフェバーは、恭子とも行った事があるお店でその時はとても美味しく感じた。
それなのに……同じお店にもかかわらず、佐原さんとは気を遣うばかりでちっとも楽しめなかった上に、ワインの味も料理の味もよくわからなかった。


「今日はもしかしたら楽しめるかも、って気持ちでお会いしたけど、やっぱり無理だった。だから……」


『ねぇ、葵。まだ知り合って間もないんだし、そんなに慌てなくてもいいんじゃない? こういう事はゆっくり考えて返事をすればいいんだし、佐原さんもゆっくり考えたいっておっしゃっていたみたいだから』


母の言葉に眉間に親指を当て、小さなため息を漏らす。

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