ラストバージン
「あら……。毎年悪いわね」

「気にしないで。本当に少しだけだから」

「ありがとう。大切に遣うわね」


お正月に両親に金一封を包むようになったのは、就職してからの事。
まだ学生だった頃に姉夫婦がこっそりそうしている事を知った私は、就職と同時に自然とこうする事を考えていた。


両親は恐縮して躊躇いを見せるけれど、私達からのお年玉で毎年仲良く食事や日帰り旅行に行ってくれていて、その報告を聞く度に嬉しくなった。


「今年は、お母さんからもお年玉があるのよ」

「え?」

「右のポケットに入ってるわ」

「そんな……。いい歳して、お年玉なんて貰えないよ」

「そんな大した物じゃないから、受け取ってよ。そうじゃないと、葵からのお年玉も受け取れないじゃない」


そんな風に言われてしまったら、断る事が出来なくて……。戸惑いながらも、お年玉袋を入れた方とは逆のポケットに手を入れるように告げた母の言う通りにすると、小さな紙切れのような物が指先に当たった。


「読んでみて」


取り出したそれは二つに折り畳まれていて、言われるがままに開いた直後に絶句した。
そんな私を見ていた母が、とても満足げにニッコリと笑っている。

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