ラストバージン
「山ノ内さん、申し訳ないんだけど朝一で空いた個室のシーツ交換を大至急お願い出来る?」

「え?」

「内科から、一人受け入れる事になったのよ」

「わかりました」


キョトンとした山ノ内さんはすぐに笑顔を見せたけれど、傍で話を聞いていた酒井さんが眉を小さく寄せた。


「主任、夕方に整形から来られる患者さんはどうするんですか?」

「内科からの受け入れは三時間だけだから、何とかなると思う。今から来る患者さんは十四時には内科に入れるみたいだし、準備は大変だけどお願いね」

「でも……内科主任って、リハ科を目の敵にしてますよね。いつも嫌味ばっかりですし……」


不満そうな酒井さんに内心では共感しつつも、微苦笑を浮かべる。


「困った時はお互い様だよ。もし断ると、こっちが何かお願いしたい時に頼みづらくなるし、多少無理してでも受け入れるべきだと思ったの」

「私も主任の意見に賛成です」


山ノ内さんは、酒井さんに「酒井さんの気持ちはわかるけどね」と笑い掛けた。


「……世の中って理不尽ですね」


素直にそんな事を言える酒井さんを羨ましく思いながらも「お願いね」と念を押すと、彼女は渋々と言わんばかりに受け入れ準備に取り掛かった。

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