Dear 輝
夢から覚めた瞬間が嫌い。
現実を思い知らされるから。
現実は悪夢よりも残酷で、私に重くのしかかってくるの。

川瀬 美咲、17歳の高校2年生。

大学受験に向けて猛勉強する精神障害者。
発病が何歳だったのかは不確実。
中学入学と同時に、児童相談所のお世話になっていたことだけは覚えている。
中学2年に進級する頃には、心療内科への通院が始まっていた。
中学当時の診断名は「強迫神経症」だった。
繰り返し行動を症状とする強迫神経症は、本人だけでなく周囲も苦しむことになる。
私の場合、道路の往復、階段の上り下り、電気の消灯、トイレ頻回が主たる症状だった。
繰り返したくない。
そう強く願うのに、繰り返し行動をやめることができない。
繰り返しをやめたら、死ぬかもしれないという恐怖感が常につきまとっている。
繰り返し行動は、高校入学まで続いた。
高校へ進学してからは、別の症状で苦しむ羽目になった。

統合失調症。

高校進学と同時に診断名は変わった。
妄想や幻覚、幻聴で苦しむようになり、統合失調症と判断されたのだ。
被害妄想はひどいもので、時には叫びだすことさえある。

「皆私のこと嫌いなんでしょう、笑っているのでしょう!!」

耳を塞いで叫べば、呆れ顔で両親が私を見つめるの。
泣きはらして、「苦しい」と叫んでも、誰も私を救ってはくれない。

誰か助けて!
苦しみから救い出して!

毎晩涙を流しながら、耳を塞ぐ。
私のことを嫌いにならないで。
私のことを惨めだと笑わないで。
誰かお願い。
誰か助けて。

苦しみながらも、勉強することをやめなかった。
教育熱心な父に認めてもらいたくて、時間さえあれば机に向かった。
偏差値で言えば50に届かない高校に通学しているけれど、成績は学年トップを誇っていた。
10段階評価で、平均9.4という好成績。
全国模試を受ければ、偏差値は60を超えていた。
私という人間に、父は淡い期待を抱いていた。
都内の国立大学現役合格。
それは、私に課せられた使命だった。
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