みあげればソラ

「弘幸、そろそろ貴方も自分の幸せを考えてもいいんじゃない?」

サラエボへの出発の朝、幸恵は弘幸に切り出した。

また、数ヶ月この家を空けることになる。

「サキも家に戻ったし、ユキも合格すればこの家を出て行くでしょ。

ミアの声も出るようになったし、あんたの心配ごとは全て片付く。

次の一歩を踏み出す時よ」

「おふくろ……」

「賢いあんたのことだから、もう色々考えてるとは思うけど。

一応言っとく。

わたしはあんたの決定に従う。

全面的に賛成する。

無責任な発言と取られようが構わない。

それが今のわたしにできる最期の親としての務めだと思うから」

「これから家を空ける人間に言われてもなぁ」

「あら、居ないからこそ好きにできるでしょ」

「まぁ、そうとも言えるけど」

「また会うその日まで、元気で」

「おう、おふくろも元気で」


幸恵はそうして旅立った。
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