みあげればソラ
「なあミア、ユキが大学受かったら、二人でどっかに行かねぇか?」
突然の弘幸の提案に、美亜は林檎をフォークに刺したまま固まってしまった。
「何処でもいいけど、できれば海外がいいな」
そんな無茶を、と美亜は思った。
海外に行くとなればパスポートが必要だ。
「ミアも成人したんだし。この際、本籍も移して綺麗さっぱりしたらどうだ」
「えっ?」
「これから先、何が起こるかわかんねぇだろ。
お前の母親とか、その男とか」
弘幸は、暗に、このあいだの強姦未遂事件のことを言っているのだ。
多分、美亜の母親は今も誰か男と暮らしている。
美しく、気高く装っていても、彼女は一人では生きていけない。
男の支えを必要とする女なのだ。
「切羽詰まりゃ、人間、何を考えるかわかったもんじゃねぇしよ。
お前が望むなら、この家売り払って何処かへ引っ越してもいい」
「えっ? ゴ、ゴホォッ……」
美亜は驚き過ぎて、林檎を喉に詰まらせるところだった。
「なに驚いてんだよ。
俺は、もうずっと前から考えてたぜ」
弘幸はまるで、当たり前のように平然とそう言った。