みあげればソラ


「ただいまぁ〜」


玄関に入った途端、その違和感に気が付いた。

女の匂いが家中に溢れていた。


確か……、袴田弘幸は数年前までは彼女の自慢の息子だった。

イギリス人ジャーナリストだった彼の父親に似た丹精な顔立ちに、すらりと伸びた手足。

少し薄いブラウンの癖毛とグレーの瞳。

見た目は所謂ハーフな彼だったけれど、中身はしゃきしゃきの日本人。

尤も日本で生まれ育ったんだから、それは当たり前のこと。

彼は彼女が一人で産んで育てたのだから。

父親から受け継いだ頭脳と身体能力と、母親から受け継いだ素晴らしい生活力。

彼は小さい頃から周りの注目を集める人気者だった。

あっさり難関国立大に合格して周囲を驚かせたのも束の間、止めるのも早かった。


「大学に行く意味がなくなった」


というのが表向きの理由らしい。

思えば、そこからがバカ息子人生の始まりだった。

以来、弘幸は駅前のクラブでナンバーワンのホストをして暮らしている。

< 33 / 207 >

この作品をシェア

pagetop