歪ノ櫻(イビツ ノ サクラ)
何も、返す言葉を見つけられませんでした。


捨てられることはあっても、売られる日が来るなどとは考えてもいなかったのです。

命を取られることはないからと、父は言いました。


けれどもそれは気休めにもならない言い訳でしかなく、『売られた』という事実は飢えの浸透しきった私の体に深く突き刺さりました。


それでも私の身一つで父や母、幼い妹弟達がこの地獄のような追い詰められた日々から抜け出せるのならば、私達家族にとっては最善の事なのかもしれない。

言い聞かせながら、身売りをすることを承諾しました。


本当は、私には心に決めた方がいることを父に打ち明けたかった。

この身は、その御方のためにあるのだと言ってしまいたかった。


身売りのためにこの村を出たら、次の春に戻ってくることなど叶いません。
桜が咲いて、私がいなかったらあの御方は悲しまれるでしょう。

ようやく約束の時を迎えるというのに。

けれど、あの御方のことをどう話したらいいのか、信じてもらえるのか。

例え父が信じてくれたとして、身売りの話を断ることになったとしても、今度は私達家族が苦しむことになります。


私にはどちらも大切で、選ぶことは出来ず、結局言い出すことは出来ませんでした。

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