歪ノ櫻(イビツ ノ サクラ)
震える手が種火を取り落とすと、その火も二人を焼く炎の一片へと変わっていきました。

一歩、後ずさると、裾を引いた手が力なく離れました。


逃げるように、家を飛び出しました。


夜半から強くなった冬のよく乾いた北風は、炎を煽り、村を赤く染めようと、方々から吹きつけていました。

炎が村を囲うのにはさほど時間はかかりませんでした。


どこへとも分からず、一心不乱に村を駆け抜ける間に、人も家も田畑も業火に包まれていきました。
知った顔も知らぬ顔も、幼い妹弟のように炎の中苦しんでいました。


何度も何度も、背後に助けを求める悲鳴を聞きました。

けれども私は耳を塞ぎ、振り返らずに走り続けました。


――全て、私が。


額から汗が流れるのは、炎の熱さのためだけではありません。

体が震えるのは、冬の寒さのためではありません。


――鬼は、私だったのです。

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