吐き出す愛
――プルルルル……!
思い出に浸かっていたら、突然部屋に大きな音が響いた。
急激に意識を引っ張ってきたそれに驚いて肩を上下させる。
振り向くと、ベッドの枕元に放置してあったスマホが震えながらけたたましく着信音を流していた。
スマホを手にして画面を確認すると、今まさに思い浮かべていた有川くんの名前が表示されていて、緊張で胸が高鳴った。
慌てて画面を操作してから耳に当てる。第一声は思い切りテンパっていた。
「も、もしもし……!」
「もしもし、佳乃ちゃん? ……何か、久しぶりって感じ、だな」
あの日からときどきメッセージのやりとりはしていたけど、付き合ってから電話で話したのはこれが初めてだ。
おまけにお互いバイト漬けの日々で全然会えないまま私が帰省してしまったから、顔を合わせるどころか声を聞くのさえ久しぶり。
そんな状況を照れ臭く感じていたのは私だけではなかったらしく、電波の向こうの声も少し上擦っていた。
些細なことだけど、耳に届くその響きがお互いに同じように聞こえているのかなって思うと、ちょっとだけ嬉しい。
「……あのさ、突然なんだけど、今から俺の頼み聞いてくれる?」
「えっ、頼み? 私に出来ることならするけど……」
頼みって何だろう? しかも、今から、って……。
頭の隅で考えるけど、いまいち思い浮かばなくて首を傾げた。
半ば引き受けたも同然の返事をしておきながら、難しい頼みだったらどうしようって、不安にもなる。
私の姿は見えていないはずなのに、まるで見えているみたいに笑ってから有川くんは言った。
「ふは、そんな心配しなくても大丈夫だって。佳乃ちゃんだからこそ出来る頼みだから」
「そうなんだ。……それで、頼みっていうのは?」
胸を撫で下ろしてから本題を尋ねると、有川くんが微かに息を吸う音が聞こえた。
どうしてだろう。
それだけで有川くんが得意気に笑う姿が浮かんでくる。