「涙流れる時に」
「この匂い・・・」るみ子はふたたびこの香水の匂いに興奮した。

「綺麗・・・」香水にまとわれた百合の体を舐めるように見入る。

男を略奪してしまいそうな美貌、恋の敵だったら絶対負けちゃうわね。

だから・・・今は頼りきるしかない・・・この女に。

「そうそう、付き合いは続けてね。さぞ、いい男なんでしょうね。」

「・・・ハイ」

百合の言うがままに、るみ子は牧村との交際を重ねることにした。

50万・・・

るみ子にとってそれは約3か月分の給料くらいの金額。

正直高い買いものだった・・・

誰にも言えない、親友の紗江にだって・・・。

明るく装う、るみ子。仕事と牧村に専念しているが、どことなく百合の存在を恐れていた。

「本当にやってくれるの?」

「牧村は奥さんと別れる?」

るみ子は時折、百合の事が頭から離れない。

高城百合 31歳。詳しいことはわからないが、住む世界が違うって感じの女。

「別れさせ屋」とか「探偵」とか、るみ子は百合の情報を検索したが何一つヒットしない。

「詐欺だったら本当にどうしよう・・・」そんな不安と、でも心のどこかで期待してしまう自分・・・。

幸い、メールや電話はつながっていた。

るみ子の何気ない会話にも付き合ってくれる穏やかな面もある。

しかし・・・数週間後、その時はやってきた。

「そろそろ、だから」

百合からのメール。るみ子はいっそう興奮した。

「そうだ・・・一度だけ寝てもいい?」

酷な質問だった。返信に時間がかかる・・・。「牧村のためなら・・・」

るみ子は承知するしかない・・・

「ハイ」

「では、3日後・・・」

この契約が本物であることを、るみ子は願うしかなかった。

しかし、これを最後に百合からのメールはなぜか途絶えていった。

「なんで・・・?」何度送っても返ってこないメールにるみ子は苛立ちを募らせていた。
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