ファインダーの向こう
「ふふ、異母兄弟でも透兄さんとそっくりだって言われるのに、そんな嫌がらなくてもいいじゃないか」


 ぎらりと光るその瞳に全身が泡立つ。沙樹はバッグを勢いよく掴むと、その部屋から転がり出るように飛び出した。


「おい! 待て!」


「いい、放っておけ」


「しかし……」


 沙樹を追いかけようとした黒服を制すると、渡瀬は新垣にもう一度向き直った。


「さぁ、取引は失敗だ。君はあの女を私の元へ連れてくることができなかった」


「そ、それは……倉野さんを危険な目に遭わせるなんて、オレには―――」


「危険な目? 心外だなぁ……君は、私よりも先に彼女に手を出していたみたいけど?」


 渡瀬の余裕の笑みに新垣は言葉を失った。そんな新垣を渡瀬は勝ち誇ったように鼻で笑う。


「そんな中途半端な良心が命取りになる。君は私たちの裏の部分を見てしまったからね……ただで返すわけにはいかないよ」


 新垣は恐怖で足が竦み小刻みに震え出すと、頭を抱え込んで叫んだ。


「やだ、やめろ……やめろぉぉぉ」


「まったく、情けない男だ」


 そんな様子を無表情に冷たく見下ろし渡瀬が顎で合図をすると、新垣は黒服の男たちに囲まれて夜の闇に消えていった。



「透兄さん……近いうちに会えそうだね。楽しみにしているよ」


 誰もいなくなった資料室で、ただひとり渡瀬は怪しい笑みを浮かべて煙草に火を点けた―――。
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