ファインダーの向こう
「それで? お前は神山ルミと里浦の浮気現場を捉えるべく、波多野さんから依頼を受けたってことでいいのか?」


「え……?」


 逢坂の口から出た言葉は、沙樹が身構えるような内容ではなかった。予期せぬ肩透かしに、沙樹は返事をすることも忘れた。


「波多野さんがどうして俺をお前に付けたのか……わかるか?」


「そ、それは……こういう芸能ジャンルは女性ひとりだと危険かもしれないからって―――」


「お前……騙されやすい性格って言われるだろ? それとも単に平和主義なのか?」


「だ……ます? どういうことですか?」


 聞き捨てならない言葉を耳にした沙樹は、思わず眉を顰めて逢坂を睨んだ。


「いざとなったら気持ちが揺れて、お前がヘマしないようにだ。お前の身の危険なんか、あの人が考えてるわけないだろ」


 逢坂に冷たく言われて、瞠目しながら沙樹の思考が停止した。


「わ、私……」


 絞り出した声が細かく震えていて、沙樹は唇を軽く噛んだ。その声に逢坂が向き直り、沙樹をじっと見据えた。逢坂を同行させる本当の目的を知って、心外この上なかったが、逆に自分がルミのネタをうまく入手して見返えしてやりたいという気持ちが沸き起こった。


「逢坂さんは、私とルミが知り合いだって知ってるんですよね?」


「あぁ、波多野さんから聞いた」


「たとえ親友のネタを撮ることになっても、仕事は仕事ですから……私、失敗なんかしません」


 二人の視線が絡み合って、解けると逢坂がふっと小さく笑った。


「その意気込みだけは買ってやるよ、明日……深夜0時に渋谷駅に来い」


「着いたら、GPSで逢坂さんを検索すればいいですか?」


「なかなか物分りがいいな、気に入ったよ。じゃあ、そういうことで」


 逢坂はそう言い残すと、沙樹を置いて屋上を後にした。


(自信を持ってやってる仕事なんだから、しっかりしなくちゃ)


 夜の闇に消えゆくような逢坂の立ち去る姿に、沙樹はいつまでもその背中を見つめ続けた―――。
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