ファインダーの向こう
「おはようございます。波多野さん」


 数時間後、沙樹は午後から寿出版に顔を出した。


 沙樹が家に帰宅した頃、会社用の携帯に波多野からメールを受け取った。


【午後出社してもいいからね~! その代わり、出社したら一番に僕のところへ来て】


 という内容のものだった。当然、ルミと里浦のネタの件で咎められるのだろうと、あらかじめ覚悟はしていたが、波多野はにこにこ顔で沙樹を出迎えた。


「おっはよ~沙樹ちゃん! 今朝はお疲れさまね」


「あ、あの……すみませんでした」


「んー? なんのこと?」


 波多野はパソコンをいじりながら不可解な返事をする。


「ネタの写真ですけど―――」


「あぁ~そのことか、写真ならもらってるよ~バッチリ神山と里浦がホテルに入ってくところ」


「えっ?」


 沙樹の素っ頓狂な声に、波多野は予想通りと言わんばかりに声を立てて笑った。そして、一枚の画像をプリントアウトした紙を沙樹に見せた。


「これは……」


「貴重な貴重なネタだよー。それ、他の会社で売ったらかなりいい報酬金額になると思うよ~」


 沙樹は波多野の言葉に動揺するよりも、何故、ルミと里浦の写真がここにあるのか理解できずに、ただ呆然とその紙に目を落としていた。


(これ、私が撮ったものじゃない……まさか、逢坂さんが……? でも、どうして?)


「優しい先輩カメラマンに感謝だね、沙樹ちゃん」


「……やっぱりこれ、逢坂さんが撮ったものなんですね」


「そうだよ。まぁ、あいつは最後までとぼけてたけど。僕、逢坂の写真は今までに山のように見てきたから、わかっちゃうんだよねぇ」


 波多野はそう言ってデスクの上のお茶をずずっと飲むと、今度は神妙な顔になって沙樹を見た。
< 55 / 176 >

この作品をシェア

pagetop