ファインダーの向こう
 レコーダーの真実がショックで、世界が白んでいたことも気づかなかった。沙樹は逢坂がいることも忘れて、無心でバッグからカメラを取り出した。


(こんなことなら一眼レフ持ってくればよかったな……)


 この場所から見る朝日は、いつか絶対に写真に収めたいと思っていた。不意に巡ってきたシャッターチャンスに沙樹は高揚した。


「ぷっ。お前、写真撮るの下手だな」


「え……?」


 まさにシャッターを切ろうとしたその時、背後から噴き出す逢坂に沙樹は振り返った。すると逢坂が歩み寄り、カメラを持つ沙樹の手に重ねた。


「っ!?」


「おい、よそ見すんな、ちゃんとファインダーの向こうの景色捉えろ」


「は、はい!」


「うーん、この位置だな」


 手の甲からじんわりと温かな感触が伝わって、それは沙樹の冷え切った指先にまで浸透した。


「あんまり被写体を中心に置くな、背景と高層ビルと太陽のバランスを考えて撮ってみろ」


「……すごい」


 逢坂が固定すると、ファインダーの向こうに広がる景色が一変したような気がした。


(私、この景色をファインダー越しに逢坂さんと見てるんだ……)


 沙樹のシャッターを切る人差し指に逢坂の指が重なると、ピッと小さな音がして写真を収めた。液晶画面に保存された景色は、今まで先が撮った中で一番輝いて見えた。


「綺麗……」


 昇る朝日を見つめながら、沙樹は再び瞳が濡れているのに気づいた。


「ほら、こっち向け」


「あ……」


「ったく、よく泣くなお前は」


 その温かな両手で顔を包み込むようにすると、逢坂は親指で沙樹の涙を拭った。


「も、もう……子供じゃないんですから」


「大人になりきれてない子供だな……」
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