ファインダーの向こう
「あ、波多野さん、逢坂さんも、お疲れっす」


「なんだ、新垣か」


 波多野はちらりと興味なさそうに新垣を一瞥した。


「波多野さん~オレ、ずっと探してたんですよ。さっきもここ覗いたら外出してるって倉野さんに言われて……あぁ、さっきまで一緒にお茶してたんですけど」


「え? 沙樹ちゃんと? それって抜けがけ?」


「そうですよ、羨ましいですか」


 そんな二人のやり取りに付き合ってられないと、逢坂がすっと席を立った時、新垣が逢坂に視線を向けた。


「久しぶりですね、逢坂さんとこんなところで会えるなんて」


「……どうも」


 目もくれず逢坂がぶっきらぼうに応えると、新垣は一瞬口を曲げたが気を取り直して言った。


「逢坂さん、倉野さんがどこに行ったか知りませんか? さっき、カフェテリアでお茶してた時、友達からかなぁ~電話がかかってきてたみたいで、その後すぐに帰っちゃったんです。その様子がちょっと気にかかって……」


 逢坂は腕を組みながら首をかしげている新垣を、じろりと横目で見た。


「なんでそんなことを俺が知ってるって思うんだ?」


「なんとなく逢坂さんなら居場所知ってるかと思って……倉野さん、逢坂さんのこと尊敬してるって言ってたし」


 新垣は逢坂の視線に目を逸らし、口ごもるように言った。


「なになに~、もしかして、新垣は沙樹ちゃん狙い? だったら残念だったねぇ~。逢坂と沙樹ちゃんは赤い糸ですでに結ばれてるから」


 ニヤニヤしながら波多野が言うと、逢坂は呆れるようにため息をもらした。


「えっ!? ど、どういうことですか?」


「波多野さん、余計なこと言って話しややこしくするのやめてください。って、そうやって面白がるのも趣味悪すぎですよ。じゃあ、俺そろそろ行くんで」


「はいはい~い! 行ってらっしゃい」


 ひらひらと手を振る波多野を尻目に、逢坂が廊下に出て歩き出そうとした時だった。
< 94 / 176 >

この作品をシェア

pagetop