ファインダーの向こう
 ルミの言う取り返しのつかないことの指す意味が、今自分の脳裏に浮かんでいることと同じであれば、ルミは罪を認めていることになる。


「ルミ……取り返しのつかないことって?」


 真実に近づけば近づくほど、迫り狂う焦燥感に沙樹の心拍数が上がっていく。


 二人の間に流れる沈黙が耳に痛い。


 すると―――。


「沙樹、里浦を追うのはやめて。これ、最後の忠告よ」


 ルミが顔をあげると、沙樹に真摯な眼差しを向けて言った。沙樹はその視線を受け止めると、瞬きを忘れてごくりと喉を鳴らした。ルミはそんな沙樹を見て、頬杖を付きながら妖艶な笑みを浮かべた。


「それと……逢坂透って人のことを教えてもらいたいの」


「え……?」


 なんの脈絡もなくルミの口から飛び出したその名前に、沙樹はぴくりとしてしまう。


「こっちも色々ツテがあって調べさせてもらったの、あなたのとこの寿出版のカメラマンよ」


「どうしてルミが……その人のことを知りたいの?」


 逢坂と関わりがあることをルミに知られてはいけない。


 沙樹の本能がそう告げた。ルミはどんな小さな表情の変化も見逃さないといったふうにじっと沙樹を見つめた。


「私が知りたいんじゃないの、隆治の知り合いが……ね」


 里浦の知り合い―――。


 沙樹はまだ見えない人物が、逢坂に黒い手を伸ばしているような気になってゾクリとした。


「ごめん、ルミ。私、ちょっとお手洗いに行ってくる」


 胸の中を覗き込んでこようとするルミの射抜くような視線に耐えかねて、沙樹はとりあえず誰もいないところで混乱した頭の中を整えるために席を外れた。


「早く戻ってきてよ、まだ話の途中なんだから」


「う、うん」


 そう言って沙樹は、鼻を鳴らすルミを後にした。

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