死神のレシピ
私は夜の街を駆け出していた



どこをどう走ったのか自分でも憶えていない



気が付くと、さっきの川のほとりで佇んでいた



そうだよな



あんな良い人なんだもん



彼女くらいいるよな



なに期待してたんだ私は



それに私は、魂の修行が終了したら天上界に帰るんだし



これで良かったんだ



これで…



小石を拾って真っ暗な川に投げ入れた



チャポン



音だけが空しく響いた



そして、もう一度



“これで良かったんだ”と呟いた



私の瞳から大粒の涙が零れ落ちた



一生懸命忘れようって言い聞かせても



心がそれを許さない



…もう…



…アントニーに会うのはやめよう…



私はそう誓った


< 44 / 125 >

この作品をシェア

pagetop