イチ日記(にっち)
イチとヒモ
イチの日常はなかなか面白く僕を飽きさせない。

イチには大事な友達がいる小さい頃から一緒で寝るときはこいつがいないと寝れず、旅行にももちろん一緒に連れていく。

『ヒモ』である。

ただの『ひも』『ヒモ』『紐』だ。

青と黄色と黒い布製のそれぞれ太さが違う紐を結び、頭のないタコのような形をし、先の方をライターであぶり固めている。

それがイチの大事な『ヒモ』だ。

大事なくせによくなくす。
「あれ?イチのヒモは?」
一日に一回は聞く言葉だ。

布団の中に紛れていたり、すぐそこにあったり。見つけ出すのは大概僕だ。

もうパターン化していることもあり簡単に見つけれる。でも、イチに苛ついたりしている時は見つけてもしばらく黙っている事もある。

一度イチとケンカした時にこのヒモを分解したことがあるが凄い怒られた。恐ろしかったのと、どんなに大事かがわかったので二度とせず、今ではイチの大事なものとして家の中でもそれなりの地位を得ている。

小三の双子の娘はヒモには絶対に触らない。興味はあるようだが、恐らく一度くらい本気で怒られたのだろうそれなりの距離をとって過ごしている。

僕も布団を敷くときは必ずヒモを安全な場所に移し、たたむときも同様にする。イチは満足気だ。

何がそんなにいいのかを聞いたことがある。イチは
「やってみて」
というのでやり方を教わり実際にやってみた。

まず、ヒモ全体を包むように握り親指と人差し指で先の焦げた部分を掴む。それを鼻の頭にコスコスするだけだ。
ちなみにコスコスは主に擬音で何かを伝えるイチのイチ語で、こするってことだ。わかりやすい。

とにかくやってみた結果僕にはヒモのよさが全くわからずイチをがっかりさせてしまった。

「黒じゃなくて青は?」とか言ってたけど、まぁ一応試したけどわからなかった。

イチにしかコイツの良さはわからないのだろう。まあそれでいい夫婦でヒモの取り合いになっても仕方ないしね。

今日も明日も、イチはヒモを握りしめながらテレビを見て、音楽を聴いて、寝るのだろう。

寝ているイチの右手からヒョコッとヒモが出ている。可愛いなと思ってしまう僕である。
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