逃亡

ー7









二時間後、私はハヤトさんに深々と頭を下げていた。

「真那ちゃ~ん、頭を上げて座ってよー」
苦笑するハヤトさん。
「そりゃー、俺は何本もレギュラー持ってないし、」
「……。」
「興味無かったら尚更ねー。」
と拗ねた口調。

「~す、すみませんっ。」
只、只、頭を下げ続ける私を、テーブルに紅茶を置く屋嘉部さんが笑った。
「ーーーハヤトさん、何気に追い詰めてません?」
「ハハ、ビジュアル系ロッカーが素顔を曝してニュースを読むって、かなり話題になったと思ってたからねー、まさか“知らない”て言われると思って無かったよう。」
「ご、ごめんなさいっ!!」
もう、ひたすら頭を下げた。
「ハハハ、真那ちゃんはイイコだねえ。」
冗談だから座ってよと、ハヤトさんは、金色のメッシュの入った髪を揺らして笑っていた。


ハヤトさんは、二時間前とは別人。
音楽番組で良く見るビジュアル系ロッカーHibikiのボーカルの顔になっていた。


風に煽られた様子を留めた髪型。
綺麗に色取られた眼は、斬新で妖艶。
色鮮やかな鳥に似た模様。
黒真珠のピアス。



「……。」

それを造り上げた屋嘉部准ーーーJUN.Y。
ヘアとメイクを手掛けるトップアーティストだ。



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