セカンドデビュー【完】

二人の冬

捜査が残っている鏡原たちを青森に残して、オレは帰路についた。
琴音の携帯に留守電を入れて、電源を切る。

青森空港は山の中にあって、飛行機が上昇するにつれ、街の灯りが見えた。港の近くの、三角の建物。
ポツリポツリと光の粒が山間を走っている。
冷たい雲の中を通り過ぎる時、機体の羽根の先の照明が、水の粒を光の線に変えた。


……琴音が弟だったなんて。
母さんは、実の両親にも、言うことができずにいたんだ。

言えるはずない。

(アヤさんは知っていて、オレに言わなかった……)

二人の秘密。
両親が別居していた理由も、今ならわかる。
世間体もあったろう。

機体が揺れるたび、耳鳴りがした。
飛行機はニガテなんだ……。


琴音に早く会いたい。
あの憎まれ口を聞きたい。

……でも、どんな顔して琴音に会えばいい。
オレの弟。

手がかりを探して、青森に行ったのに、知らされたのは意外な事実。

月がくっきりと見える。
太平洋の上に、月が、影を落としている。

触れられない、青白い月。
それでも、その影は月が確かに存在していることを示している。

オレは、この影みたいだ。
もう会えない母親を探して、見失って。

……お母さん。
あなたの影をずっと探している。

もうすぐ東京に着く。
街の灯りは涙で滲んで、宝石箱を引っ繰り返したように見えた。
いくら探しても、お母さん、あなたはもういない。
解っているのに。
探すべきは、あなたを殺した相手。

この街が、オレの舞台。
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