君色キャンバス
群青色



シュウシュウと、筆がキャンバスを撫でる音がして、祐輝は目を覚ました。



パイプ椅子にもたれかかって、いつの間にか寝ていたようだ。



(…ここどこだ?)



ぼんやりと霞む薄暗い視界を見回しながら、目の前に浮かぶ白い四角い物に気づく。



右手で目をゴシゴシと擦ると、ぼやけた視界がだんだんはっきりしてくる。



石膏の像やら、レプリカの像やら、鮮やかなキャンバスやらが置かれていて、美術室という事を理解した。



嫌に暗く、黄色い光が差し込む。



目の前に居るのは、一人の女子。



(…久岡か)



黒髪をギュッと後ろで縛っていて、整った人形のような顔立ちの紗波が、キャンバスを睨みつけるように見ている。



その目つきに一瞬 恐怖した。



しかし、そんな事を思っては失礼だと、気を切り替える。



そして、紗波に向かって話しかけた。



「…俺、寝てた?」



「寝てた」



冷たくて、ぶっきらぼうな声が返ってくるが、こちらを見ている様子は感じられない。



「いつから?うわ、すっげえ記憶 無いんだけど」



「…五時半くらいから」



「五時半?今 なん__」



祐輝は、美術室の壁にかけられている、シンプルな白い時計の短針を見て、絶句した。



__十時だ。



嫌に美術室が薄暗いのも解る。



外は夜なのだ。



「わ、なんで俺こんな時間まで!?つか久岡、帰らねえの!?」



「帰らない」



すっ、と紗波がゆっくりと線を引いた。



「…できた」



キャンバス前の椅子から立つのが、暗闇の中、見えた。



月がかなり明るい。



< 38 / 274 >

この作品をシェア

pagetop