君色キャンバス
「さ、どこ行く?」
「どこでも」
紗波は興味が無いらしく、ビニール傘越しに、雨雲が支配する空を見上げている。
小百合は、向日葵色のワンピースの腰に左手を置くと、苦笑を浮かべた。
「…まぁ、紗波は絵を描くために来たんだもんね」
コク、と肯くのを見て、小百合が黄色い傘を振る。
「じゃあ、渋谷とかは?」
「どこでも」
「…私もどこでも良いのに」
小百合がヤレヤレと首を振った。
彼氏が部活だった事への意地として、紗波と出掛けようとしたのだが、考えてみれば無理矢理な話だ。
少し紗波に申し訳ない気持ちになる。
「じゃあ…渋谷…で良いか…」
「うん」
小百合と紗波が雨の中、駅まで歩いて行く。
電車に乗ると、畳んだ傘から滴る雨水が、ポツポツと斑点を作った。
「小阪 弘先生ね、また作品を発表したんだって。早いよね」
小百合が、小阪先生__画家の話を持ち出した。
紗波がうん、とだけ返事を返す。
「月の絵だってネットに書いてた。…そういやさ、紗波って小阪先生の絵だけ興味 持つよね。好きなの?」
「…好きじゃない、嫌い」
紗波が、いつにもなく、キツイ声で、言った。
「…え?」
小百合が大きく目を見開く。
「嫌い…でも、気になるから。…教えて」
紗波がそれだけ言うと、窓の外を見た。
雫を通して見る町は歪んでいる。