君色キャンバス
若草色



すぅ、と水に浮かんでいくように、だんだんと意識がはっきりとしてくる。



周りを見回せば、昨日の一日を過ごした美術室だ。



窓に切り取られた空は、白とも灰色とも言えない雲が殆どを埋めていた。



季節は梅雨、今夜辺りは大雨が降りそうだ。



壁にかけられた時計は、七時十七分を指している。



立ち上がって、背筋を伸ばし、伸びをすると、頭の中の霧が晴れていく気がした。



「…ん」



視界の端に入ったキャンバス。



紗波が、キャンバスに歩み寄ると、ソッと自分が描いた子猫を眺めた。



それは、決して下手な物ではなく、むしろその真反対と言っても良い。



しかし__感情の無い黒毛の子猫は、どこか不気味に感じられた。



制服についた埃を払い、キョロキョロと周りを見て、昨日の子猫を探す。



しかし、その姿は見受けられず、紗波は目を伏せた。



手櫛で髪を梳くと、長い黒髪がサラサラと揺れる。



美術室を出ると、紗波は教室に向かった。



__教室には、あの三人が居たが、今日は特に何もされておらず、紗波はノートを取り出すと鉛筆画を描き始めた。



時たま、チラチラと、三人が紗波の方を見る。



< 87 / 274 >

この作品をシェア

pagetop