妖勾伝









「酷い目にあったな。」

消えていく二人の後ろ姿を見ながら、神月が山の脇から降りて来た。

痛みにうずくまる二人に、声をかける。

「冗談じゃない。
酷い目どころじゃないぜ。
何で、助けに来てくれないんだよ。」

タツミの鬱陶しい声に、耳を塞ぐ。

「俺は止めたぞ。
自業自得だ。」





ーーそれにしても…


女もそうだったが、男は更にそれを上回っていた。

あの、立ち振る舞い。

武術だけではない、あの身のこなし。

全てに、長けていた。

ーーきっと、俺でもかなわないだろう。




そして、

以前何処で会ったような……



物事に無関心な神月の心に久しぶりに点く、一つの好奇心。


「用事が出来た。」

その見えている片眼だけを、器用に細める神月。

印象に残るその大きな口の端を持ち上げニタッと笑うと、タツミとヨシを残して二人の後を追った。


「おっ、おい!
待てよ、神月。
綺麗な姐さんとこに、遊びに行く約束だったろーー」


虚しく響く声。

清々しい朝靄に溶け、その声はゆっくりと山際に掻き消されていった。






< 12 / 149 >

この作品をシェア

pagetop