妖勾伝
其ノ壱

<1>










まだ冷える明け方。

薄暗い山道を急ぐ、人影が一つ。





群生している木々には朝露がしっとりと張り付き、辺りの空気を心地良いものにしていた。

耳には何羽かの野鳥の囀り。

何かの気配を察知すると羽音をたてて、一斉に空に飛び立っていく。



凛と背筋を伸ばし、黙々と進んでいくその後ろ姿。


この山を越えれば、じき町にでる。

隣町を出てもう半日。

休むことなく夜道を歩き続け、少し足取りが重たくなっていた。


見上げた空。

木々の間から白んで見える。

ーーこのまま歩けば、昼前には着くだろう。

足を速め、先を急いだ。



< 3 / 149 >

この作品をシェア

pagetop