フラグ


俺「とりあえず、田中がおらんようになってからの事を話そうと思ってる、田中も佐知子の事気になってるみたいやしな」


花「そうか、それやったら隆の気持ちを田中に言わなあかん事になるな」


俺「まぁそうなるな」


健太「それより先に、連絡先教えとけよ」


俺「そうやな、こんな偶然に会うとか無いもんな」


健太「偶然ちゃう奇跡や、俺と友子ちゃんとの出会いも奇跡や!」


花「それはちゃうやろ、たまたまや」


俺「あははっ」


健太「たまたまでも何でもええねん、友子ちゃんと上手くいけば何でもええねん」


花「それも上手くいくか分からんけどな」


健太「それは全て、隆にかかってるんや」


俺「健太、悪いけどお前の事まで考える余裕ないからな」


健太「また6人一緒に遊ぶ約束してきてくれ」


俺「出来たらな」


花「ほんなら、時間やし食堂行こうや」


俺「そうやな」



食堂で、他の宿泊客も一緒に夕食を食べてる最中、薄気味悪い笑顔をしながら健太は1人妄想の世界の中で夕食をとっていた。


俺「健太完全にイってもうとるな……」



それを聞いて花が健太の方を見て「ビクッ」っと体をさせていた。



夕食をとり終えてしばらくして早めに、待ち合わせの砂浜に向かう事にした。


俺「ほなちょっと行って来るわ」


花「おぅ!頑張ってな」


健太「………」



健太は、ただただ俺に合掌していた。



民宿から外に出ると、潮風と磯の匂いが鼻腔を擽る。



俺は、海の夜が気持ちいいと思った。


上の道路から昼間の砂浜を覗いてみたが田中はまだ来ていないみたいだったので、1.5メートルくらいの防潮堤の上に座って夜の海を眺めて待つことにした。



磯の香りと波の音、これだけでずっとこうしていても飽きないと思った。


「川上君!」



防潮堤の下に田中が立っていた。


「おぅ!」


「ごめんなさい、待った?」


「いや、海見たかったから早めに来ただけやで」



そう言いながら立ち上がろうとしたら田中は「そっか、私もそこに行きたい」と言ってきた。


「おぅ!」



俺は、手を防潮堤の下に差し出した。



田中は、俺の手を掴んで何とか防潮堤によじ登った。


「ちょっと高いだけで違うもんやね」


「あぁ、潮風と海の匂いと波の音ってええな」


「うん」



防潮堤の上に二人並んで座り、少しの間海を見ていた。


「田中?」


「えっ?なに?」


「俺……田中の事が好きやねん」


「えぇっ?」


「あぁ、びっくりしたか?あははっ、いやちょっと聞いててくれる?」


「う…うん」


「自分で田中の事が好きなん気付いたのは、田中がおらんようになってからやねんけどな、気付いた時には遅かったんやけど…」


「う…ん」


「凄い悩んで考えて、ストレスで入院してな」


「えぇ!?ほんまに!?」


「あははっ、ほんまほんま、ほんでそれから最近までは何事も無かったんやけど」


「うん」


「去年のクリスマスイブに佐知子に告白されてんけど、俺はまだ田中が好きやから断った」


「えぇ!?ちょっと!川上君ほんまなん?」


「言いたい事はいっぱいあるやろうけど話し進めるで」


「うん、分かった…」


「それから佐知子とは疎遠って言うんかな?家にも来んようになって会わんようになってん、その頃に健太と花がバイクの免許取ってバイクでここに来る計画が出来てん」

「その為に毎日バイトして教習所通っててな、佐知子に話しかけても無視されるし俺も毎日バイトと教習所で佐知子とはどんどん疎遠になってん」

「ほんなら最近、佐知子に彼氏が出来て佐知子の彼氏に「佐知子に二度と近づくな」って言われて佐知子と揉めて、夏休みになってここに来たら田中と偶然会った。以上!」


「…なんか私……凄い…迷惑かけてる……」


「あははははっ、かけてへんかけてへん!田中があのまま居ても結果は一緒やって、田中が気にする事ないわ」


「でも……」


「今日の昼間は言いにくかったんやけどな、田中には言わなあかんと思ったんや」


「うん……」


「だいたい田中が罪を感じる事ないやん、それよりせっかく再会したんやしこれからも前みたいに遊ばへんか?」


「それは良いけど、ちょっと遠くなったし…」


「大丈夫!俺らバイクあるからな、それでも前みたいに毎日遊ぶのは無理やけどな、あははっ」


「そうやね、あの頃はほんまに毎日遊んでたもん、ウフフフフ」


「ほんでこれ俺の家の電話番号」



俺は、家の電話番号を書いた紙を田中に渡した。


「うん、帰ったらすぐに電話するから」


「分かった、これで俺の話しは以上!何か聞きたい事あるか?」


「想像もしてなかった話しやし、何をどう聞いてええかも分からへん……」


「俺は、いつまででも時間大丈夫やし聞きたい事あったら何でもええで」


「うん」



しばらく二人で夜の海を眺めていた。


「川上君?」



田中が海を見ながら話し出した。


「ん?」


「佐知子とはこれからどうすんの?」


「正直、俺からはどうしようもないな、佐知子の彼氏に二度と近づくなって言われた事もそうやけど、俺が佐知子の周りにいたら佐知子と彼氏が上手く行かへんやろ?」


「そうかもしれへんけど……川上君はそれでええの?」


「俺がええかどうかやなくて、佐知子が彼氏と上手く行くようにって考えたら、俺はこのままの方がええと思う」


「でも…佐知子は川上君の事が好きなんやで……」


「でも、佐知子が今一番大事にせなあかんのは彼氏やと俺は思う」


「それはそうやね……難しいな…」


「そうやな…難しいし……人が人を好きになったら障害も生まれるんやなって思ったわ」


「そういう事もあるかもしれへんけど……それも相手次第なんちゃうかな?」


「あぁ、それもあるやろうな」


「私が居なくなってからそんなに色んな事があったんやね」


「ほんま色々あったなぁ、次は何があるんやろ?ええ事やったらええんやけどな、あははっ」


「悪い事があったら、ええ事もあるはず!」


「田中が前向きなん珍しいな、あははっ」


「私いつも前向きに生きてるつもりやで、ウフフ」


「ちゅうか、水戸黄門の歌みたいやな、あははっ」


「ウフフフフ、「人生楽ありゃ苦もあるさ~」って言う歌やんね?でも…ほんまにそう思う、私がそうやもん」


「確かにそうやけどな」


「うん、川上君にもこれから良いことあるよ全体」


「そうやったら、ええのになぁ」


「川上君?」


「ん?」


「私の事……えっと……」


「好きやで……ずっと…これからもずっと好きやと思う」


「うん……あの…私どうしたらええ?」


「どうもせんでええ、今は俺の気持ち伝えれただけで十分やし、田中もびっくりしたやろ?」


「凄いびっくりした……そんな事言われた事もなかったし、まさか川上君が私の事……」


「俺な、たぶん田中に自分の気持ち伝えれへんかったんが一番後悔してたんや、それが一番辛かったんやと思う」



少ししかない街灯の明かりでも分かるくらい田中の顔が赤くなっていた。



赤くなった顔を隠すように、田中はうつ向いた。


「今日、偶然田中に会って好きやって気持ちに確信持ったし、言えへんかった気持ちを全体伝えなあかん思った」

「でも、田中に特別何か期待してる訳でも返事が欲しいとかちゃうねん、今はまた前みたいに田中と居たい」


「それは……私もおんなじ…またみんなと一緒に会って遊んだり色々したい」


「今は、それでええやん!」


「うん…」



俺は、満足感でいっぱいだった。



田中が俺の事をどう思っているのかよりも、自分の気持ちを伝えられた事だけで満足だった。


「田中、ちょっと砂浜歩かへん?」


「ええね!砂浜散歩しよ」



俺は、防潮堤から飛び降りた。



田中も、防潮堤の上に立ち上がったが「えぇ!?どうやって降りるん?」と言い出した。


「どうやってって飛び降りたけど、もしかして田中無理なん?」


「こ、これは無理かも…」


「よし、こっち側に足出して座って」



田中は、防潮堤の上でこちらに足を出して座った。


「これでええの?」


「そうそう、ほんで俺の手を持って」



俺は、田中に手を出した。



田中が俺の手を持った。


「こっからどうすんの?」


「そこから一気に飛び降りようか」


「怖いよ…」


「大丈夫、俺に飛び込んで来てええから」



田中は、俺に向かって飛び込んで来た。



飛び込んで来た田中を俺は、持っている手を引っ張り自分の方に引き寄せ抱き締める格好にして田中を受け止めた。



1秒か5秒か、感覚的には数分に思える時間、抱き締めていた気がした 。



柔らかい、ずっと抱き締めていたい、と思った。


「大丈夫か?」


俺は、抱き締めたまま田中に聞いた。


「うん…大丈夫…」



田中の両肩を持って、自分から田中を離した。


「ありがとう」



そう言った田中の顔が近すぎて、恥ずかしくて「ほな行こか」と言ってさっさと歩き出した。



田中が追い付くように俺の横に並び、一緒に砂浜に行く階段を降りる。



砂浜は思ったより街灯の明かりが届かず意外と暗かった。


「結構暗いんやな」


「暗くて躓きそう」



そう言ってすぐに田中は落ちていた流木で躓いた。



俺は、咄嗟に田中の腕を掴んだ。



掴んだ腕を離して、そのまま手を繋いだ。



手を繋いだまま歩いていた俺は、緊張のあまりドキドキして言葉が出なかったが、田中も緊張しているのか何も言わなかった。


「あ、ありがと……」


「ん?」



間が空いていたので、何のお礼か分からず聞き返した。


「転ぶとこやった、ウフフ」


「あぁ、危なかったな」


「私、運動神経鈍いから」


「大丈夫、危ない時はちゃんと助けるから」


「私、川上君に助けてもらってばっかりやなぁ」


「貸しはいっぱい作っとかなな、あははっ」


「ウフフフフ、いつか何かで返すから」


「あははっ、待ってるわ」


「ウフフ、うん」


「あそこで砂浜が行き止まりっぽいから、あそこまで行ったら帰ろうか?」


「そうやね、そろそろいい時間やしね」


「そういえば田中、明日も朝から海行くん?」


「うん、友子といつかで海行くよ」


「ほな一緒に、色浜の方に行かへん?」


「色浜ってどこ?」


「今歩いてる方のまだ先のところなんやけど、綺麗な海で浅瀬が続いて浅瀬の先の海の中に砂浜があんねん 」


「え?海の中に砂浜があるん?」


「そうそう、砂浜の島みたいな感じ」


「そんなところあるんや、みんなに聞いてみるけど、どうせ海行くんやし行くと思う」


「一応行くかどうか聞きに、朝田中が泊まってるホテルの前まで行くわ」


「そうやね、じゃあ時間決めとこっか」


「7時くらいでええか?」


「うん、分かった。じゃあ7時に一回ホテルの前まで出て行くから」


「了解、んで行き止まり到着!ほな折り返して帰ろうか」


「そうやね」



砂浜が絶壁の岩場で遮られてる場所で折り返した。



夜とは言え夏の暑さのせいか、田中と繋いでいる手が汗ばんできたが心地良くも感じる。



他愛のない会話をしながら、あっという間に元の場所まで帰って来てしまった。


「ホテルの前まで送るわ」


「ここでええよ」



俺は、少しでも長く手を繋いでいたかったので「ええってええって!」と言ってホテルの前まで送って行った。


それでもやっぱりホテルの前まですぐに着いた。


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