つぼみ、ほころぶ
「あっ! ケータイ鳴ってるよ、ユウちゃん」


車内の音楽で気づかないのか、浅い胸ポケットで騒がしくしてるケータイをユウちゃんは取ろうとしない。


「運転中」


「あっ……そうでした」


「ってか、運転してなくても出たくねえな」


「なんで?」


「……多分アニキ。昨日からの着信回数はストーカーだ」


代わりに確認してあげると、すでに切れてしまった着信は言う通りカズくんからだった。


「昨日、チイが一回目の風呂ん時、アニキが阿呆な電話かけてくるから一方的に切ったんだ。そっからは無視」


「あの言い争いカズくんだったんだー。なんだったの?」


「………………、アニキに訊かれても、風呂も料理も最高で、女将さんは綺麗で素敵だったと無邪気に言っておけ。アニキにもまた連れてってほしいと、冗談でも、言っておくと安心するかもしれんな。……カラオケの嘘は、アニキにはばれてる」

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