つぼみ、ほころぶ
まだまだ三月の朝は寒いのに、ユウちゃんは容赦ない。べつに、遅刻さえしなければ、いくら準備に時間がかかろうと構わないと思うんだけど。そもそも、今日は集合時間を決めてないんだし。


「リビング暖房つけといたから、風邪ひかないうちに降りてこいよ」


「布団持っていった張本人が言わないでよ~」


でもまあ、暖房はありがたい。今日は両親ともに仕事だから、この家は冷えてるはずだったから。


のそのそと起き上がりリビングへ降りていくと、ユウちゃんがソファに腰掛けながら、あたしの愛読書を読んでいた。


「――ユウちゃんも、そういうのお好きなのね」


数ある小説の中の一番お気に入り。もう何度読んだかも覚えていない、ユウちゃんがいつも鼻で笑う、甘い甘いお話。


案の定、今日のユウちゃんもそんな態度で鼻を鳴らす。


「暇つぶしの一環だ。無駄口ばっかだと、この恥ずかしい小説の台詞を音読させるぞ」


「そんなこと、あたし躊躇なく出来るもんね。脅しになりませーんっ」


とは言いながらも、もう起きてしまったことだ し、さっさと出掛けられるよう洗面所へと走っ た。
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