つぼみ、ほころぶ
カズくんの指先はカサカサしてて、シャンプーやパーマ液の混ざった匂いが鼻をツンと刺した。カズくんは美容師さんだ。


「ごめんなさいでした」


「うん。よろしい」


信号が青に変わった。解放された鼻先には残り香がまだあって、それがやんわりとあたしを責め続ける。


「今度、おじさんとふたりでデートしてきなよ」


「ふたりっきりで? お祝いに何か買ってくれるかな?」


「――チイちゃん」


「っ、無理強いはしないよおっ」


べつに、カズくんは本気で怒ってるわけじゃな かったけど、自分でも少し発言に申し訳なさを感じたものだから、座りなおした身体をもう一度前に倒して弁解した。
< 3 / 112 >

この作品をシェア

pagetop