恋のためらい~S系同期に誘惑されて~

ドサッ。

私のトートバッグが手から滑り落ちた。

私はその音と振動でようやく我に返り、バッグに手を伸ばそうとした。

でも笹山はそんな動きを牽制するかのように、私の頭を動けない様に固定し、舌を使って私の唇をこじ開けた。

口腔へいとも簡単に侵入して来たその舌を押し戻そうと試みるも、反ってキスは深まるばかりで。

「……んっ…ぁ」

自分の唇が柔らかくなり、体の奥で疼く様な熱い塊が生まれるのを感じた。


これは、欲望のキスだ。

……何で、こんなキス。


いつの間にか、エレベーターは1階まで来ていた。

扉が開く寸前のところでキスも終わる。

始まりも終わりも唐突で、私の体は痺れた様に動けなかった。

笹山は私の代わりに落ちたバッグを拾うと、エレベーターの中で立ちすくむ私の腕を掴んで、人気(ひとけ)の無いエントランスホールを歩き出す。

私は引っ張る笹山の腕を振り払った。

「…何なの……」

自分のものとは思えないほど掠れた声しか出なかった。

笹山は何事も無かったかのように、拾ったバッグを私の胸に押し付けた。

「ほら。隙だらけじゃん、お前」
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