恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
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成瀬に焚き付けられる様な形ではあったが、欲しいものを自覚した俺は、会社帰りにタマを誘って今までと同じ付き合い方を通した。
いつものように居酒屋で飯を食いながら軽く酒を飲む。
くだらない話しをして笑う。
今までと違うのは、その途中で必ずのように鳴るスマホだ。
俺のことを牽制しているのか、それとも他愛ない話しをしたいだけなのか。
タマはちょっとゴメン、と言いながら居酒屋の席を立とうとするから、俺は手でそれを制し煙草を取り出す。
少し緊張した面持ちで座り直し話し始めるタマを、煙草の煙の向うに見る。
タマは、何か言われたらしく少し嬉しそうに微笑み、相槌を打っていた。
タマの笑顔に苛立つ。
俺じゃない男に向けた笑み。
……ムカつく。
いっそのこと惑わせて抱いてしまおうか。
この薄暗い俺の感情を知ったら、タマはどうするんだろう。
少なくとも目の前にはいない筈だ。
俺は横を向き、ゆっくりと煙草を燻らす。
「笹山、ごめん」
いつの間にかスマホを置き、焼きおにぎりを頬張るタマ。
「……お前、よく食うな」
「何言ってんのよ。笹山もビールばっかり飲んで無いで、ほら」
まだ1個残っている焼きおにぎりの皿を差し出され、仕方なく受け取る。