ワインお作りします


「そうですね…。これは…今に戻るワインです。」

「今…?」

「えぇ。」

今に戻ってどうするんだ?
…と黒猫は思う。

戻ったところで彼の場所は元の場所にはないはずなのに。

「逢いたい人がいるんです。」

彼は優しく笑った。

「誕生日の人?」

黒猫でなくても解るだろう。
それくらい彼の顔は優しい顔をしていた。

「向こうはびっくりするでしょうね。」

「そうだろうな。」

こんな嬉しそうな顔、初めて見た。
こんな顔もするのだと黒猫はやっぱり驚いた。

彼は黒猫にまた笑って、棚から葡萄を取り、瓶へ入れ始めた。
しばらくすると、いつものように瓶の中身はワインへと変化した。

「一緒に飲みますか?」

出来上がったワインを彼はグラスに入れる。
黒猫にも勧めるが、黒猫は即答した。

「遠慮する。」

「では。」

彼は一口飲むと眠りについた。

「いってらっしゃい。」

聴こえないだろうと思いながら黒猫は彼に呟いた。


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