四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
第3章 父の思惑

誘拐

ドアを閉めてから、より一層足が重くなっているのに気付いた。


夏目に帰れと言われた。

この前は、気のすむまで残っていていいと言ってくれた夏目に。


すべては、私の我が儘だって分かってる。

だけど、あの日から冷たい夏目の本音が、分からない―――


うつむいて歩いていたら、家の前に知らない人が立っているのに気付かず、思い切りぶつかってしまった。


「あ……、すみま、」


急に手のひらで口を塞がれた。


「うぐっ、えっ」

「黙って。お願いだから。」


予想外の優しい口調に驚いて見ると、私の口を塞いでいるのは40代くらいの男だった。


「ちょっと来て。」


小さな声で言うと、男は私を車の中に引き入れた。

車に詳しくない私が見ても分かる。

それはこの住宅街に場違いなほどの高級車だ。


車のドアを閉めて、すぐに男は言った。


「詩織ちゃん、で間違いないな?」


思わずうなずくと、男は車を急発進させた。


「手荒な真似をしてすまない。もう少し辛抱してくれ。」


私はもう恐怖も忘れて、その男の端正な横顔を見上げた。

高級スーツに腕時計。

何から何まで整っている。




「あなた、誰、ですか?」

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