四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~

可愛い秘密

その日も自習室で勉強していた。

午前中から来ていて、もうすぐお昼だ。

今日の教科は数学。

伸びをしようと椅子を後ろに下げた時、突然視界に映った人がいた。


あ……。


声を出さずに驚くと、その人は笑った。


「小倉じゃないか。2年生なのによくやってるな。」


いつもよりずっと落とした声のトーンが、心地よかった。


「先生。久しぶり。」

「なぁ、ちょっと休憩しないか?」

「え?」

「いいから。」


そう言うと、自分はさっさと自習室から出ていく。

私はあわてて、その後を追った。


ガラッとドアを閉めると、さっきまでの静寂が嘘のように、運動部の掛け声がにぎやかに聞こえてくる。


「先生、何?」

「ちょっと来てくれるか。」


夏目はなんだか嬉しそうだ。私も楽しい気分になって、先生についてった。

夏目が私を連れてきたのは、生物実験室だった。


「小倉、ちょっと目をつぶって。」

「なにー?先生あやしい。」

「いいから。」


促されるままに目を閉じる。


「手を出して。」


なんだかすごくドキドキする。

すると、なにか私の手のひらに、ふわっとしたものが乗った。


「え?」

「目を開けろ。」

「わーーー!可愛い!」


手のひらに乗っていたのは、小さなヒヨコだった。


「先生、これどうしたの?」

「内緒だぞ。」


夏目は私の質問には答えずに、その小さな生き物を愛おしげに見つめた。

夏目にも、こんな一面があることが意外だった。


基本的に夏目は、怖い先生だと思われているから。

私だって、いまだに夏目を怖いと感じることがある。


いつもこんな顔をしていたら、夏目はすごくモテるだろうな。

そんな余計なことを考えてしまった。
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