四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~

急降下

家に帰ると、玄関に知らない男物の靴があった。

私は、警戒してそっとリビングの扉を開いた。


「お帰り、詩織ちゃん。」

「え……。」


そこにいたのは早瀬だった。


「だって外国に行ったんじゃ……。」

「ああ。でもなるべく早く仕事に型をつけて帰ってきた。詩織ちゃんのために、お父さん頑張ったんだ。」

「そ、う。」

「さあ、早く荷物をまとめて。すぐに行くよ。」

「行くって、どこに……?」

「俺の家だよ。東京にある。」

「はい?東京って……。私高校生なんですけど。」

「え?」


いや、え?じゃなくて。


「学校通えなくなっちゃいます。」

「なんだ、そんなことか。転校すればいい。都内の有名私立高校に通うんだ。こんな公立のちっぽけな高校に何の未練があるというんだ。」


早瀬の声が、信じられないことをさも当然のように告げた。

私は混乱していた。


「そんな……。」

「高校なんてどこだっていいじゃないか。君にとって一番大事なことは、お父さんと暮らすことだ。今まで寂しい思いをしてきた分、何でも叶えてあげるよ。君は、俺の娘だ。君を大切にするのは、親としての義務だから。」

「だって……。」

「そうよ、詩織ちゃん。お父さんがそうおっしゃっているんだから。」


叔母が口を挟んだ。

そりゃそうだ。

叔母にとっては、お荷物である私を手放すチャンスだし、きっと富豪の父から、謝礼とか言ってたくさんのお金ももらうんだろう。


「決まりだ。ほら詩織ちゃん、早く支度を。」


どうやら事は、私の知らないところでどんどん進んでいるみたいだった。

私だけが取り残されているみたいで、ただ呆然と立ち尽くすことしかできない。


「あの、一日だけ時間を下さい。」


早瀬は困惑したような顔で私を見つめた。


「すぐにも来てくれると思って、支度をしておいたのに。……でもいいだろう。お父さんは詩織のわがままなら何でも聞くからな。」


私は早瀬に背を向けて、階段を駆け上った。

言いようのない不安と空しさと、怒りと、その他形容しがたい悲しみを抱えて。
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