四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~

先生の婚約者

夏目が篠原さんと交際しているといううわさが流れ始めたのは、ちょうどそのころだった。


「詩織……。」


智がしょんぼりした声で、私を呼ぶ。

何が言いたいか分かるから、私も同じ気持ちだから、お願いだからそれ以上何も言わないでほしい。


「夏目先生の好きな人って、ほんとに篠原さんだったんだね。」

「そうみたいだね。」

「でも私、それでもまだ、夏目先生のこと好きだよ。ほんとに、本気で好きだよ。」

「うん。」

「負けない。私絶対負けない。」


智は強い。

私とは比べ物にならないほど強い。


私は少し、智がうらやましかった。


私は夏目を裏切った。

だから、夏目に文句なんて言えない。

そもそも、私は夏目が好きだけれど、夏目にとって私はただの一人の生徒にすぎないのだから。


「ねぇ、智。」

「ん?」

「私、別れたよ。」

「えっ!!どうして。」


目を丸くした智に、一瞬本当のことを伝えようかと思った。

でも臆病な私は、一瞬のちにはもうやめてしまった。


「なんか違うな、って思って!」

「そうなんだ。もったいないなぁ。」


素直に納得する智は、私の何倍も純粋な生き物だと思った。


私はもう二度と、その純粋さを手に入れることはできない。

後悔ばっかりして、結局また繰り返して。


もう夏目に近づく資格さえ、私にはない―――
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