歌姫桜華
「あ、待って。町村さん」
私は理事長室を出ようとしたとき、足を止めた。
振り返り、
「寮って、私どこ?」
「放課後来い。教えてやる」
「わかりました」
そして私は、また足を動き始めた。
桜も散り、今は6月。
なんて微妙な時期だろう。
「ねぇ、町村さん」
「なんだ?」
「………知ってるの?」
「―――――なにも、知らねぇよ」
なにを?、とは聞かない。
前から、そういう人だったなぁ。町村さんは。