異世界で家庭菜園やってみた
ウリエルの手を引いたまま、悠理は闇雲に歩き、気付けば遠くに見えていた林の近くまで来てしまっていた。

新緑の芽吹いた木々の下を、小川が流れている。

この小川がなければ、悠里はまだ先まで、進んでいたかもしれない。

「ユーリ。どうしたんだ?」

小川の方を向いたまま、ウリエルを見ようとしない。

「ウリエルさん」

それは消え入りそうな声だった。

「うん」

いつもより一層儚く見える悠里の後ろ姿に、ウリエルの頭に嫌な予感が過ぎった。

「お願いが、あるんです」

「うん」

「やっぱり、もう、わたしにかまわないでもらえますか?」

「……」

悠里の言葉の意味を理解しようとするのに、頭がジンジン痺れて何も考えられない。

すぐ近くで流れている小川の音が、やけに遠くに聞こえた。

「どう、して?」

ウリエルがやっと絞り出した声は、とても掠れていた。

「側にいることも、許してくれないの?」

「わたし、いい子じゃないです。自分が傷付きたくないから、本音を言わないだけで。ほんとは、いろんな事、心の中で文句言ったり、愚痴ったりしてる。ウリエルさんが側にいると苦しいんです。自分の嫌なとこにばかり気付かされるんです」

「知ってるよ。そういうとこも全部、好きだって言ってるんだけど、それでもダメなの?」

悠里がくるりと振り返った。

赤く充血した目に、見る間に涙が浮かんだ。

「どうして、そんなに簡単に好きだなんて言えるんですか?わたしは言えない。拒絶された時のこと考えたら、怖くて、言えません……」

ウリエルは痛みを堪えるように目を閉じ、深く息を吸い込んだ。

それからゆっくり吐き出すと、自嘲的な笑みを浮かべた。

「俺の想いが、ユーリの重荷になるなら、俺はもう、お前の側にはいられない。そんな辛そうな顔、させるつもりはないんだ。ごめん……」

「……」

「野菜作りは?」

「ジョーさんやアルバートさんがいるから」

「ああ……そうだな」

何とか悠里の心を繋ぎ止める手立てはないかと考えたが、こんな明らかに拒絶されたのだから何も浮かばなかった。

「悠里が落ち着くまで待ってようと思ってたんだけど、やっぱり無理だった?」

「……」

悠里がコクリと頷いたのを見て、ウリエルは胸に走る痛みに耐えながら、「分かった」と言った。

「それじゃ」

一言言い残し、悠里はウリエルの脇を走り抜けて行った。




「とうとう言われたな……」

人に気を遣うばかりの子が、ああもはっきり迷惑だと言ったのだ。

「これから、どうすっかなあ」

途方に暮れたように、ウリエルはしばらくその場に立ち尽くしていた。



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