異世界で家庭菜園やってみた
菜園まで戻って来ると、ジョーがあらかた種を撒き終えていた。

そこに柄杓で水を撒いて、この日の作業は終わりだった。

「これからは、水やりと草引きが大事になりますから。一日交代でもいいですよ。」

「ああ。それ、助かるな。実はバイトが決まったから、もう少し日数入れてもらおうかな」

「あ、そうだったんですか?おめでとうございます!はい。是非そうしてくださいね」

「じゃあ、わたしも家の片付けでもしようかな。サムじいさん、コウメさまにべったりかい?」

「ああ。そうですね。コウメさまの菜園担当みたいになっちゃいましたね。おじいさん」

「ふふ。まあ、いいか。じゃあ、ユーリ。元気、お出しよ!」

豪快に笑って帰って行くジョーの背中を見送りながら、悠里が呟いた。

「もしかして、ジョーさんも気付いてる?」

「ん?ああ。心配してたな」

「はあ。わたし、どんだけ分かり易いんだろ〜」

コウメさまの邸に戻りながら、こんなにゆっくりアルバートと話をしたのは初めてだった。

彼は高校大学と進学したかったのを諦め、家計を助けるために働いていたと教えてくれた。

「だからね。サラには学校、ちゃんと行ってもらいたいんだけど、ひねちゃったからさ。なんとか、勉強させてやりたいんだけどなあ」

「サラちゃん。家庭教師とかは?」

「家庭教師?」

「そう。コウメさまのお邸なら、誰か教えてくれる人いそうだし。サラちゃんが嫌じゃなかったら、だけど」

「家庭教師かあ」

アルバートは考えているようだった。

そして、コウメさまのお邸が近くなった所で、不意に言った。

「サラの家庭教師、ユーリがやってくれない?」

「え?ええええ!!無理無理。絶対、無理!だって、サラちゃん、わたしのこと、嫌いだもん」

「サラが言ったの?」

「うざいって」

「ああ。あいつ、誰彼構わず、そう言うんだよなあ。気にしちゃだめだよ。あいつの言うこと」

「でも……」

あの時の「うざい」は、かなり本気だったような気がした。

「あいつに話して、その気になったら、やってもらえる?その、賃金とかは、僕のバイト代が入ってからで」

「賃金なんて、いいよ。わたしも、そんなのなしで、野菜作ってもらってるんだから。おあいこだよ。バイト代は他のことに使ってね」

「ん。じゃあ、そうさせてもらおっかな」

話が付いたところで、邸に着いた。

玄関を入ると、ウリエルがいた。

ビクッとする悠里にかまわず、アルバートが前に出る。

「ウリエルさん。今日は種を蒔きましたよ。ウリエルさんも来てくれるかと思ったのに」

ハットして顔を上げる悠里を、アルバートは無視した。

「ああ、今日は外務部の仕事があったからね。お疲れさま」

そう言って、立ち去ろうとするウリエルに、アルバートはさらに声を掛けた。

「あの。サラ、見ませんでしたか?」

「サラちゃん?いや。見てないな。菜園には行かなかったのか」

「あいつはもう。実は、ユーリに、サラの家庭教師してもらおうかと思ってるんです」

「家庭教師?」

ウリエルが、ちらっと悠里を見た。

「ああ。それはいいね。いろいろと、やってみるといい」

その言葉は、悠里に向けられたものだったろう。

ウリエルが去ってから、アルバートがそっと呟いた。

「愛だね」と。





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